2日間に渡って開催された「小林由依卒業コンサート」が、幕を閉じた。
集大成を見せつけるかのように、圧倒的なオーラと表現で観客を魅了し、8年半のアイドル人生に終止符を打った。
2日間の中で、披露された欅坂46の楽曲は「風に吹かれても」「危なっかしい計画」の2曲だけであったが、それだけ櫻坂46に楽曲が集まってきたともいえるだろう。彼女の中では、2020年10月13日、あの日で、何もかもをやり切り、全てを宝物箱の中にしまっておくことを決めていたのかもしれない。
2日間の配信では計23曲を披露し、そのどれもで、過去最高を見せ続けてくれた。
その中でも、私の中で特に印象に残った楽曲を挙げていきたい。
ジャマイカビール
初っ端からのキラーチューン。楽曲を披露する三人からは覇気のようなものが感じられたが、その中でも小林由依は別格であった。一挙手一投足が、見るものを虜にした。
断絶
曲前のVTRから秀逸。小林由依が6回ドアをノックすることによって、楽曲を暗示させる。暗転の直後から始まるギターのストロークは観客を熱狂の渦に呼び込んだ。ビジュアル、パフォーマンス共にハイレベルなメンバーによって構成されているため、お互いがお互いを昇華し合うような構図になっており、一瞬たりとも目が離せなかった。
僕たちのLa vie en rose
個人的な解釈になってしまって申し訳ないのだが、この曲は一見恋愛の曲に感じられるが、卒業生に向けての激重な愛を歌った卒業ソングなのではないか?と思っている。
君は 全部全部僕のもの
こういった印象的な歌い出しで始まりながらも、2サビ終わりでは
美しい人生 永遠が終わるまで 夢を見よう
といったように、終わりや切なさを感じさせるフレーズが散りばめられている。
今回は、小林由依以外がみんな2期生であったことも、そういったことを強く思わせた一つの要因なのかもしれない。
危なっかしい計画
盛り上がって、みんなでタオル振り回して、思う存分はっちゃけられる曲。
青春は熱いね 全部渋谷で学ぶんだ
渋谷区にある代々木第一体育館。今まで何度もライブを行ってきた場所であり、今回の卒コンが行われた場所でもある。酸いも甘いも、喜びも悔しさもこの場所で沢山経験してきた彼女が、笑顔でこのフレーズを歌ってくれたことに、とても嬉しくなった。
Anthem time
3期生楽曲でありながら、小林由依が参加するという、今回限りのコラボレーションとなった。この楽曲は、ファンがアイドルへ向けた想いが歌詞になったような曲だが、この卒コンでは、小林由依から3期生、もっと言えば櫻坂のメンバーに対するエールのような楽曲に聞こえた。
大事なこととは必死さ
会場のボルテージ最高潮にして そんなメンバーがいたと 記憶に残してくれ
いつか卒業する遠いその日まで 僕にすべてを見届けさせてよ
涙が止まらなかった。離れても見守っているよ、必死に頑張ってねと背中とパフォーマンスで伝えているようだった。そして、小林由依さん、貴女のことを忘れることなんてないでしょう。いつまでも記憶に、心に残り続けます。
桜月
個人的ナンバーワン。楽曲の美しさと儚さが、「卒業」にピッタリというのは勿論のこと、演出が神がかっていたと思う。1サビでのステージを分かれてのダンス。
君を想う桜 風に吹かれて
この歌詞に呼応するように、お互いがお互いを想いながらパフォーマンスしているのが伝わってきた。
2番はステージの上下で分かれながらのパフォーマンス。
名残惜しく ゆっくり落ちて行け
ここでの小林由依の表情は、まさに桜が憑依しているようだった。
暗い夜空の先 確かに今も 満開の桜が見える
あの花は僕が大好きだった人だ
ここの演出が圧巻。舞い踊る小林由依に対して、このフレーズが舞い落ちた刹那、彼女は背を向け、フッと消え去る。まるで散っていく桜のように。
あんなに美しい散り方ができたらな
小林由依がいないまま、パフォーマンスは進んでいく。そこに彼女がいなくとも、楽曲は止まらない。みんなが、小林由依のことを想ってパフォーマンスしていた。旅立つ小林由依に尊敬の気持ちを見せ、華を添えながらも、「私たちはこれからも突き進んでいく」という決意表明のようにも見えた。
隙間風よ
小林由依が最初で最後のセンターを務める楽曲。歌詞は彼女にダブることも多く、長い年月彼女を見ている人ほど、グッとくるものがあるのではないだろうか。希望の空気によって燃え盛った炎。それによって、微かな風が、彼女を羽ばたかせるほどの追い風になって、彼女の背中を優しく、温かく、そして力強く押してくれることを願う。楽曲終わりの振り向き際の彼女は、輝きと美しさを存分に放っていた。
君がサヨナラ言えたって・・・
一人で舞い踊り、ステージに立つ姿は麗しく、幻想的であった。
もう振り向かないでよ いつか会える日まで
オルフェウス的なフレーズで終わるこの曲。いつかを信じて、ただ未来を真っすぐ見つめたその先で、貴女がどこかにいることを願っている。
タイムマシーンでYeah!
アップテンポでノリノリな楽曲ながら、歌詞では気恥ずかしさや切なさを歌っていて、よりいっそう観客たちをセンチな気持ちにさせる。会場にはOGたちも大勢いたらしい。欅坂、櫻坂と歩んできた仲間であり、友人。もしタイムマシーンがあったら、いつに戻りたいのか。そんなことを訊いてみたくなった。
櫻坂の詩
小林由依が、自らのアイドル人生を締めくくるのに選んだのはこの楽曲だった。きっとこれから私たちは、小林由依がいた「当たり前の日々」を思い出したり、懐かしんだりするだろう。時には、切なくなるかもしれない。ただ、そんな時、満開の桜を見て、彼女を思い出した時、また会えるのかもしれない。
8年半の間、その華奢な背中に沢山のことを背負って走り抜けてきた。欅という木を守り、さらに枝を広げようとした。櫻という木を支え、水を撒き、満開の日を夢見てきた。もしかしたら、「欅坂46の小林由依」として、ストーリーを終わらせる選択肢だってあったはずだ。それでも彼女は残り、櫻が咲く日をジッと待った。きっと、その日は昨日だったのだろう。涙を見せずに、凛々しく去っていった彼女は、「櫻坂46の小林由依」としてストーリーを終わらせることを選んだ。小林由依が櫻坂46から卒業するのか、櫻坂46が小林由依から卒業するのか。それは分からない。ただ一つ言えるのは、その後ろに控える、新・桜前線の勢いはすさまじいということ。期待を背負って、残されたメンバーは咲き誇っていくだろう。3月から始まるアリーナツアー。彼女たちは全国で多くの人々を魅了し、沢山の櫻を花開かせていくはずだ。
そして、そんな櫻を育ててきたのは、小林由依の笑顔だったということ、私たちは絶対に忘れないだろう。